『けいおん!!』の「お茶会!」に参加したら、知らぬ間にを予防接種を受けさせられていた。

けいおん!!』7話「お茶会!」は今までと若干毛色が違うという印象を残しながらも、視聴者に今後に対する予防接種を受けさせるという点において、後々のストーリー全体への意味を孕んだ重要な回だったと言えるのではないでしょうか。

5話までを振り返った以前の投稿で、『けいおん!!』では「キャラクター性の放棄」によって自身の内部に抱える問題を強みにまで昇華したみたいな事を書きましたが、これは6話での律のボタン付けや、さわ子の教師らしい振る舞いなんかでも感じられることでした。
さわ子の教師らしい振る舞いに関しては、ボーナスの査定でも近いんじゃないか程度に思ってたのですが、6・7・8話の流れを考えると、なるほど意味のある行動だったんだということが分かってきます。さらに、梓が会ったことのない曽我部先輩の為に写メを撮るという行為も、今後の展開において実に意味のある行動として機能している、みたいな私見を以下に書いていきます。


作品内で目下の主題となるのが唯たち3年生の進路問題。いよいよ8話は「進路!」、進路希望調査表を提出することになるんだと思います。原作では綺麗に纏めて後に引きずった印象はないものの、アニメではどうなるか分かりません。進路=シリアスという発想も如何なものかと思いますが、リアル中高生にとっては現実問題とリンクするし、作品の終わりが感じられてしまうので感傷的な気分になってしまう人がいるのも仕方ないのかなと思います。しかし、今後作品を進める上で避けて通れない進路問題を自然に受け入れさせるための予防注射は作品内で既に行われています。

  • 予防注射その1:さわ子の場合

まず#06「梅雨!」。この挿話でさわ子は「シャツ入れなさい!」の様な、いかにも教師らしい振る舞いを見せます。これは8話かそれ以降の進路相談の際に、突然教師として振舞われても唐突すぎて効果が薄い「イヤイヤ。さわちゃんも一緒にお茶してただけじゃん!」という視聴者の反応を巧くかわす為に描かれたという印象です。朝礼で「修学旅行も無事終わりましたし、これからは受験モードに切り替えていきましょう。」的な発言が学年主任からあって、修学旅行の惨状を知っているメガネのオバちゃん教師に「山中先生もしっかりね。」みたいな小言を言われたんだろうと想像出来るでしょう。しかし、7話ではお茶会に特に口を出すこともなく傍らで見守るいつものさわ子として描かれました。7話でも教師らしい振る舞いを見せる訳でもなく、はたまた挿話に全く登場しないのでもなくただ見てる。これが実に効果的で、

    • #06:教師らしい振る舞い「服装注意」 → #07:いつものさわ子「見守る」 → #08:教師らしい振る舞い「進路指導」(予定)

とキャラとしての役割を連続させない(全部教師の役目ではありますが、方向性が微妙に異なる)事でさわ子を「口うるさい嫌われ者」にすることなく、教師として振舞うことを自然に受け入れさせる為の予防注射を6話と7話で施したと言ったところでしょうか。



  • 予防注射その2:梓の場合

進路問題は必ずしも3年生だけの問題ではありません。軽音部唯一の2年生梓も彼女らが卒業してしまえば軽音部で1人になってしまうからです。新入部員を迎えたり、憂・純で新生軽音部を結成となれば当面の問題は解決できるかもしれませんが、それでは根本的な解決にはならないでしょう。あくまで、あの5人だから「けいおん!」であって〜(以下割愛、ご自身で補完してください)。とにかく、卒業する4人と残される梓という構図(不安)を感じさせることなく終わらせなければならない、というのが梓周辺の問題になるでしょう。この予防注射として描かれたのが曽我部先輩と梓の撮った写メです。
まず曽我部先輩の話。ファンクラブの初代会長である曽我部先輩は、お茶会に来ることは叶わなかったものの高校時代に好きだった澪のことは今でも気になっている(変な意味ではなく、いや変な意味でか?)ようでした。自身のちょっと痛い思い出を黒歴史にすることなく、環境や容姿は変化しても楽しかった高校時代の記憶はそのまま心の中に今もある、つまり卒業しても変わらないことを印象付ける為の予防注射といえるでしょう。
続いて梓の撮った写メの話。アニメでは2学年上(たぶん)で登場した曽我部先輩を梓は直接知りません。周囲の思い出話の中に登場する姿を想像するしかないわけです。ひょっとしたら、お茶会に参加出来ない曽我部先輩の澪への熱は実はもう冷めているのかもしれない。それでも梓はアドレスを調べてでも写メを送ってくれと、半ば強引に和に迫ります。この姿は、前回の『キャラクター性の意図的なずらし(梓の場合は「クール」→「子供っぽさ」)』を想起させると共に、梓は思い出は色褪せることがないと信じている、要は梓が軽音部を楽しい場所だと感じ、その思いはどんなことがあっても決して変わることがないと感じている事の表れとしても機能しているでしょう。
つまり、梓の軽音部への帰属意識もはっきりさせると同時に、たとえ4人から残される立場であってもそれは些末な問題に過ぎず、立場や環境、距離が変わっても5人の絆は決して変わらないことを印象付けるための予防注射として曽我部先輩と梓の写メは描かれたのだと言えるでしょう。誤解が生まれがちな梓のキャラクター性を考えると、彼女の扱いは本当に丁寧にされているという印象です。



  • 予防注射その3:唯の場合

5話、修学旅行での「もう3年生かぁ」発言は原作では律のものとして書かれたと記憶していましたが、アニメでは唯のものとして描かれました。次回予告を見る限り、進路問題は唯に視点を置いて描かれることになりそうなのでこのような改変が行われたのでしょう。今思えば、唯も今後について何も考えていない訳ではないよという為の予防注射だったのかもしれません。




まぁ、予防注射って有り体に言ってしまえばみんな大好きな伏線です。敢えて予防注射という表現にしたのは、ネガティブな反応を100%予防できるものではないと感じたからです。終盤でこの挿話のことを思い出す人も居れば、終わることに過剰に反応するひともいるでしょうから…。
とにかく、どうしても描かなくてはいけない進路の話を、当人(唯)も自覚しているし、さわ子も突然その挿話で教師面するわけではない。残される梓にあっても変な誤解や憶測を生まないよう事前に準備しておくという点において、7話への流れはそれ単体のみならず今後の展開と絡めることで意味を持つ非常に重要な回だったと言えるでしょう。挿話が自然に受け入れられる為の土台作りが作品全体を通してなされているという印象です。
挿話毎に「この話は好き・微妙・嫌い」みたいな意見を持ってしまいがちですが、作品全体の流れとして各挿話を捉えてみると、この作品がいかに丁寧に作り上げられ、それが人気の要因に繋がっているのかが分かったような気になれるのでお薦めです。


当初は「けいおん!!」#07「お茶会!」は、(澪=『けいおん!!』):(他の軽音部メンバー+和・さわ子=制・製作陣):(ファンクラブ=視聴者)が対応したメタ構造が落とし込まれた挿話でであり、なんたらかんたら…なんて事を書こうかと思いましたが、考えてるうちにどうでもよくなってしまったので却下。多分「メタ構造」って単語を使ってみたかっただけの発作だったと思います。とは言え、ファンクラブ会員の目線や行動を自分らに当てはめて見ると、なかなか申し訳ない気持ちになると思うので、妙な気分になりたい方はそんな目線で見てみるのも加えてお薦めです。